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【PS4・Switch】「千里の棋譜」の感想・レビュー。将棋を知らない人にこそやって欲しい、将棋ノベルゲーム【ADV】

こんにちは。なかやんです。

今回、2020年2月27日にPS4・Switchでリリースされた「千里の棋譜」をプレイしたので、感想・レビューを書いていきます。

「千里の棋譜」ってどんなゲーム?

千里の棋譜は、ケムコが開発した、将棋を題材としたノベルゲームです。

ケムコは「レイジングループ」など、独創的なノベルゲームを開発する会社として近年評価を得ており、千里の棋譜も将棋を題材としたユニークなノベルゲームとなっています。

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注意すべき点と大きな特徴は、実際に将棋を指すゲームではないというところです。

シナリオは二部に別れており、いずれも将棋界にまつわる謎や事件に、フリーライターの一ノ瀬歩未と幼馴染の棋士見習い、長野圭が巻き込まれていくというミステリ色の強いものとなっています。

ちなみに僕は将棋については素人で、駒の動かし方くらいしか知らないのですが、千里の棋譜は、将棋に詳しくない方でも十分に楽しめるような配慮がなされており、むしろ「将棋をあまり知らない人」にこそプレイしていただきたいゲームです。

僕はこのゲームをプレイした後、将棋に対する見方がいい意味で大きく変わりました。

テンポの良いシナリオと将棋の魅力の調和

千里の棋譜はシナリオのミステリー要素と、それに関わってくる将棋要素のバランスが非常によいゲームとなっています。

前述の通り、将棋を知らなくても作中できちんと補完してくれますし、用語集で確認することも出来るので、自然と将棋の知識がついてきます。

詰将棋が謎を解くヒントになっていたり、ギミックが面白い。

また、作中には現在活躍中の実在の棋士や歴史上の伝説的棋士をモデルにした人物も登場し、フィクションながらリアリティのある演出がなされています。

これは千里の棋譜をプレイしている際に知ったことなのですが、そもそも棋士、特に戦前の棋士は面白い逸話や背景をもつ人物が多く、例として升田幸三、大山康晴、木村義雄はかなりドラマティックな人生を送っています。

こういった過去に存在した伝説的な棋士にフォーカスをあて、それをミステリとして昇華させている点が、将棋をあまり知らない僕でもとても面白く、文化としての将棋の魅力に引き込まれていきます。

シナリオのテンポも良く、トリック等もいい意味でわかりやすいので、将棋の魅力を感じながら、推理を進める楽しさがあります。

熾烈を極める勝負の世界

皆さんは将棋の世界、特にプロになることがいかに厳しいかご存知ですか?

主要登場人物の長野圭は、将棋のプロを志す棋士のたまごです。

将棋のプロは四段からとなっており、それまでは新進棋士奨励会(奨励会)に所属し、リーグ戦を勝ち抜く必要があります。

特にプロ一歩手前の奨励会三段リーグは熾烈を極め、半年に1回、三段リーグの戦績優秀者上位2名のみが四段に、つまりプロになれます。

三段リーグだけでも毎期30人近くの棋士のたまごがいるので、その中の上位2名となると、とてつもなく狭き門をくぐり抜けないといけないということがお判りいただけるでしょう。

しかも、奨励会には年齢制限があり、一般的に25歳までしか在籍できないとされています。(リーグ戦の戦績次第で年齢制限の延長が可能)

つまり、25歳まで過酷な勝負の世界で戦い続けても、そこで四段になれないとプロになれない非情とも思える世界だということです。

前述の長野圭は、年齢制限が迫る中、熾烈きわまる三段リーグを戦っています。

歩未と共に謎に迫る中、リーグ戦も勝たなければならない長野。

ちなみに、奨励会三段の実力は、若手プロとほぼ変わらないほどの実力だそうです。

僕はそもそも千里の棋譜をプレイするまで、将棋のプロのシステムを理解していなかったのですが、年齢制限があったり、半年に2名しかプロになれないという事実に大変驚きました。

奨励会三段リーグだけで10年以上戦い続ける会員も珍しくなく、奨励会三段リーグは「地獄」と形容されることもあるようです。

弱きものは去らねばならない、棋士は勝ち続けなければならない、という将棋のプロの鉄の掟(将棋だけではないと思いますが)と、命を懸けた勝負がとてもシビアに描かれており、ここが千里の棋譜の最大の魅力だと思います。

棋士同士の対決シーンは、静寂と冷静さの中での強い意志を、実際に盤面を追いながら描いているので、臨場感があります。

実際の将棋でも用いられる「藤井システム」などの戦法も登場。

これまでにない題材を器用に面白くまとめた名作

将棋ゲーム自体は世の中に無数にあれど、将棋を題材にしたノベルゲームというのは数少ないのではないでしょうか。

将棋を知らない人でも楽しめ、プレイしているうちに将棋に興味を持っていく、将棋の面白さと奥深さをミステリという形でうまくまとめた作りになっています。

惜しむらくは、将棋に興味のない人にこそプレイしてほしいゲームなのに、将棋に興味ない人がそもそもこのゲームに興味を持つか、という点でしょうか。

ともあれ、ノベルゲームとしての完成度は非常に高く、さすがはケムコだなと言った印象を持ちました。

なお、付録で将棋教室や詰将棋があるので、これを機に将棋に興味を持った方にも親切な設計となっています。

女流棋士であり、最近はyoutubeでも活躍する香川女流三段も登場。

前述の通り、シナリオのテンポも良く、だいたい30時間弱でクリアできる程よいボリュームなので、週末に面白いノベルゲームをやりたいという方におすすめのゲームです。